ゲーム1 ぼやけた写真、なーんだ?
粗い縞だけでも、写真の形はほとんど分かります。細かい縞は、輪郭やくっきりした所を足しています。ピンボケは、この細かい縞が消えた写真です。ゲーム2で、それを戻してみましょう。
ゲーム2 ピンボケを直せ!
本物のハッブルでも、研究者は星の写り方から望遠鏡の癖 k を求めて、写真を戻しました。癖が正しくても、ノイズのある写真を「そのまま割る」と砂嵐になります。0 に近い倍率で割った細かい縞のノイズが、何千倍にも膨らむからです。「割りすぎない」(ウィーナーフィルタ)は、その膨らみを抑える工夫です。
フーリエ解析の世界へ
ここからは、ハッブルの話から少し離れて、ゲームで使った数学がどんな分野の一部なのかを案内します。大学では「フーリエ解析」と呼ばれる分野で、微分積分の次に学ぶ、応用の広い分野です。
見取り図
フーリエ解析は、「形を、波(三角関数)の足し算として見る」という一つの考えから育った分野です。何を波に分けるかで、三つの形があります。
フーリエ級数:くり返す形を、波の足し算で書く
同じ形をくり返す関数(周期関数)は、ふつうにグラフに描けるような形なら、ほぼどれでも、sin と cos の波を足し合わせて書けます。四角い波も、とがった波も、なめらかな波の和です。項の数を増やすと、和がだんだん元の形に近づきます。ゲーム1で写真に縞を足していったのは、これを平面でやったものです。
━ 元の形 ━ 波の和
四角い波では、項をいくら増やしても、角のすぐ横に、段差の大きさの約9%の飛び出しが残ります(ギブズ現象)。和の形は近づくのに、角の近くだけはうまくいかない。こうした「どういう意味で近づくのか」を正確に扱うのが、大学の講義の中身の一つです。
波の強さは「掛けて足す」ではかる
四角い波に、何番目の波がどれだけ入っているかは、元の形とその波を掛けて、一周分を足し合わせる(積分する)とわかります。ラジオのつまみを局に合わせるのと同じで、ぴったり合う波のときだけ大きな値が出ます。下で波の番号を選ぶと、掛けた結果のグラフと、その面積から決まる波の強さ(面積を π で割った数)が出ます。
━ 元の形 ━ sin(nx) ■ 掛けたもの(上は足し、下は引く)
四角い波では、偶数番目の波を掛けると、上と下の面積がちょうど打ち消して 0 になります。奇数番目では打ち消しきれずに残り、その大きさは 1/n に比例して小さくなります。違う番号の sin どうしを掛けて一周足すと、いつも 0 になります。この性質を直交といいます。直交しているから、一つずつ別々に強さをはかれるのです。これはベクトルの内積と同じ考え方で、大学の線形代数とつながります(ブログ:三角関数の直交性とは、関数の「空間・基底・内積」を使ったフーリエ級数展開)。
係数(波の強さ)は、次の式ではかります。
一般の形では cos の項と定数の項も入ります。式の積分は、「全部の場所について足す」を、とびとびの画素でなく、切れ目なく続く場所 x について行ったものです。
級数から変換へ:くり返さない形
くり返さない形(一つだけの山、一回だけの音)はどうするか。くり返しの長さ(周期)をどんどん長くしていくと考えます。周期が長いほど、使う波の細かさが細かい間隔で並び、最後は連続になります。こうしてできるのがフーリエ変換です。下は、山が周期ごとにくり返す形と、その波の強さの並び(スペクトル)です。周期を伸ばしてみてください。
線はどんどん詰まっていき、包む曲線の形は変わりません(線の高さは、周期の長さを掛けてそろえています。本当の強さは周期に反比例して小さくなります)。この曲線が、一つだけの山のフーリエ変換です。くり返す形はフーリエ級数で波は飛び飛び、くり返さない形はフーリエ変換で波はあらゆる細かさ。その間をつなぐのが、この考え方です。
コンピュータの中:離散フーリエ変換と高速フーリエ変換
写真や音は、コンピュータの中では有限個の数の並びです。並びを波に分けるのが離散フーリエ変換で、このページのゲームで写真に使っているのはこれです。そのまま計算すると、N 個の数に N 個の波を当てるので、およそ N² 回の掛け算が要ります。高速フーリエ変換(FFT)は、並びを半分ずつに分けて計算を使い回し、これをおよそ N log N に減らす工夫です。100万個の数なら、掛け算の回数は数万分の一になります。このページの実験も、ブラウザの中で FFT を使って計算しています。
棒の長さは桁の数(10 を何回掛けた数か)で描いています。
フーリエ解析は、ほかでも働く
ゲーム2の「ぼかし(畳み込み)は、波に分けると掛け算になる。だから割って戻せる」は、畳み込み定理と呼ばれます(ブログ:畳み込み(合成積)とは(ラプラス変換の場合))。波に分けるという考えは、画像のぼけの外でも使われます。
部屋の響きは、音と「響き方の癖」の畳み込み。イコライザーは、音を波に分けて、波ごとに大きさを変える装置です。
体を通ったX線の写真を何方向から撮り、フーリエ変換の性質(投影切断定理)を使って体の断面を組み立てます。
写真を小さな区画ごとに cos の波に分け、人の目に目立たない細かい波を省いて小さくします。「細かい縞を消すとぼける」と同じ性質を、目立たない範囲でわざと使う使い方です。
何百万桁の数の掛け算も、桁の並びの畳み込みなので、FFT を使うと速くなります。
大学ではどう学ぶか
フーリエ解析は、理工系の大学ではたいてい2年生ごろ、「応用数学」「フーリエ解析」「物理数学」などの講義で学びます。工学部なら「信号処理」の講義でも出てきます。
- 1前提三角関数、微分積分(特に積分)、複素数とオイラーの公式
- 2フーリエ級数係数の求め方、直交、ギブズ現象、どういう意味で近づくか
- 3フーリエ変換級数から変換へ、畳み込み定理、逆変換
- 4使う熱や波の方程式(偏微分方程式)、信号と画像、離散フーリエ変換と FFT
歴史を言えば、フーリエ自身がこの考えを使ったのは、熱が物の中をどう伝わるかを解くためでした(『熱の解析的理論』1822年)。写真や音への応用は、それより後に育ったものです(ブログ:熱方程式の解き方〈フーリエ級数展開/フーリエ変換〉)。下の本は、この順で学べるものを選びました。
もっとちゃんと学ぶなら
『やさしく学べる ラプラス変換・フーリエ解析 増補版』石村園子(共立出版)はじめの一冊に。フーリエ級数からフーリエ変換まで、例題を自分で解きながら進められます。このページの「フーリエ級数」と「波の強さ」の節を、手を動かして確かめたい人へ。
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『改訂第3版 図解でわかるはじめてのデジタル画像処理』山田宏尚(技術評論社)ハッブルの写真を救ったのは、数学と、画像処理・光学の技術の両方でした。技術の側から学ぶなら、この入門書に「画像とフーリエ変換」の章があります。
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本のリンクは Amazon アソシエイトのリンクです。
関連する動画
このページのもとになった動画ピンボケのハッブル望遠鏡を救った数学(YouTube「趣味の大学数学」)
出典
- NASA: Hubble's Mirror Flaw science.nasa.gov
- NASA Office of Inspector General: NASA Cost and Schedule Overruns: Acquisitions and Program Management Challenges(CT-18-002、2018年6月14日の下院での証言) oig.nasa.gov
- NASA: Galaxy M100 Resolution Comparison(1994年1月13日) science.nasa.gov
- STScI: The Restoration of HST Images and Spectra II(1993年11月の研究会) stsci.edu
- J. E. Krist, R. N. Hook, F. Stoehr: 20 years of Hubble Space Telescope optical modeling using Tiny Tim(Proc. SPIE 8127, 2011) doi.org
- L. Furey ほか: Hubble Space Telescope primary-mirror characterization by measurement of the reflective null corrector(Applied Optics 32, 1993) doi.org
- A. B. Meinel, M. P. Meinel, D. H. Schulte: Determination of the Hubble Space Telescope effective conic-constant error from direct image measurements(Applied Optics 32, 1993) doi.org
- J. R. Fienup ほか: Hubble Space Telescope characterized by using phase-retrieval algorithms(Applied Optics 32, 1993) doi.org
- W. H. Richardson: Bayesian-Based Iterative Method of Image Restoration(Journal of the Optical Society of America 62, 55, 1972) doi.org
- L. B. Lucy: An iterative technique for the rectification of observed distributions(Astronomical Journal 79, 745, 1974) doi.org
- 画像:NASA, ESA, Judy Schmidt — M100の中心部(WFPC1) science.nasa.gov/NASA, ESA, J. DePasquale (STScI) — M100の中心部(WFPC2) science.nasa.gov
このページについて
このページは、YouTube チャンネル「趣味の大学数学」の木村すらいむが、AI(Anthropic の Claude)の力を借りて作りました。文章と計算のプログラムは AI が書き、内容は木村すらいむが確かめて公開しています。実験の計算はすべてお使いのブラウザの中で行い、写真や操作の情報をどこにも送りません。
誤りに気づいたら、チャンネルの動画のコメントで教えてください。チャンネル/ブログ/X(@kimu3_slime)

